Ank : a mirroring ape

 佐藤究を知ったのはNOVA2019年春号の「ジェリーフィッシュ」という短編で、サスペンスを描く筆致が印象に残っている。文体は抑えられているがスピード感があって、静かに畳みかけるような迫力がストーリーと噛み合っていた。

「QJKQJ」という長編は鮮烈な暴力が読後感として残る殺人家族を舞台にしたミステリーで、こちらも静かな描写の中に暴力が淡々と描かれていて印象に残る作品だった。

 本作は著者の(このペンネームで)2作目の長編であり、ミステリー仕立てのサスペンス小説となっている。問題のない範囲で内容を紹介すると、京都の研究所から脱走した一匹のチンパンジーが原因で暴動が起こり、主人公はその謎を解こうと奔走するといったもの。

 タイトルにも登場する鏡というモチーフの使い方の巧さや人物造形など優れた部分は多々あるけれど、何より文体による効果を感じる作品だった。陰惨な展開が長く続くし、助走も長い。終盤になって物語のキーとなる人物が唐突に登場するし、謎解きが始まるのもずいぶん終盤だ。これらを成立させているのが抑制的な文体で、これによってショッキングな場面は印象づけられるがスムーズに読めてしまうので読みづらさやくどさは感じさせない。

 600ページ以上あるけれどさらっと読めてしまうので文体の影響を再認識した作品だった。