茶匠と探偵

茶匠と探偵

 

茶匠と探偵

茶匠と探偵

 

 

 フランス人作家アリエット・ド・ボダールの短編集。

 アジア的世界観の《シュヤ宇宙》を舞台にした作品集だが、個々の連続性はなくひとつの世界の様々な場所で起こっている物語といった塩梅。

蝶々、黎明に堕ちて

 内戦を経験した少数民族出身の主人公が多数派の判官(警察と裁判官を足したようなものだろうか)となって、自分の故郷で起こった殺人事件を調査するという話。趣向は東南アジア風だけれど手法としてはわりと使い古されたオリエンタリズムだろうか。つまりはSFに登場する中国のスラム街の現代アップデート版だ。

 苦難の歴史と先祖から受け継いだものに対して対照的な行動をとったふたりが双方堕ちていく業の物語。

船を造る者たち

 意思をもった船というアイディアは珍しいものでないけれど、意思が宿る肉体たるストラクチャーに風水を適用するというのがシュヤ宇宙らしいアレンジ。多数の人々で行う巨大な出産というイメージだろうか。

包囊

 包囊という、身につけると見た目が特定の文化に適したものに変わり、その文化圏におけるただしい身の振る舞いや言葉遣い、相手の表情が意味するものが解るようになるスーツが登場するソーシャル・フィクション的な設定。

 我々は様々な社会に属し、所属するものやそうでない場所に様々なロールを何重にも被って演じている。それは個人を抑圧するものであるというリベラリズムと、その文化圏における正しい振る舞いがわからなければコミュニケーションが成立しないという二律背反の話。

星々は待っている

 よくわからなかった。飛び飛びで読んだのが悪かったのかも……。

形見

 死にゆく人が不老不死の存在となって生者と共存する世界。仏教的な死者との交信が普通のものとなったようなイメージだろうか。醜悪に生きることの肯定のような印象。

悲しみの杯三つ、星明かりのもとで

 仕事に生涯を賭けた人がいたとして、遺した仕事の成果とその故人との思い出とどちらが故人の本質だろうか。そういった(物語では珍しくない)問いの物語は一般的には「故人にも人としての気持ちはあったし遺した者のことを想っていた」といったオチがつけられがちだけれど、これはSFなのでそもそも仕事と人格の境界が曖昧。

 オチよりも茶の発酵を差し込むことで心理的な熟成を想起させる、SFにおける相似(まったく異なった二つのものが似た変化を遂げること)を引き起こしている手法のほうが重心だろうか。

魂魄回収

 ファンタジックな作品。短めで世界観を彩る作品といった印象。

竜が太陽から飛び出す時

    内容自体は短くて道徳的な色が強いから作品の装飾とかオチのイメージを気に入るかの問題なんだけど、これがヨーロッパ人の立場から強いオリエンタリズムで書かれたということを加味すると違う味わいがある。

 茶匠と探偵

  表題作。一番面白い。ヤク中の探偵とトラウマ持ちのAIというSF版シャーロック・ホームズのような設定で、この探偵の主人公がホームズばりにロジハラを仕掛ける厄介でキャラが立ってる。

    本筋が王道でキャラが立ってるので序盤で手が止まったら先に読むのもいいかもしれぬ。